【書評】ソフトウェアを設計するようにチームを設計する | チームトポロジー

チーム編成についてどうすればもっと良くできるのか悩んでいた時期に手に取った。この本は、ソフトウェアアーキテクチャの考えを組織に適用するという逆転の発想に基づいた組織論、チーム編成の本である。そのため、マネージャーなどの人事権を持つ人はもちろんだが、開発者にこそこの本を読んでソフトウェアを設計するようにチームを設計する面白さを知ってほしいと思う。

組織構造がソフトウェアのアーキテクチャを決定づけてしまうコンウェイの法則というものがある。本書ではそれを逆手に取って、目指すべきアーキテクチャを実現するように組織編成をするという、逆コンウェイ戦略に基づき、以下の4つのチームとチーム間の3つのインタラクションモードを提示している。

4つのチーム

  • ストリームアラインドチーム
  • プラットフォームチーム
  • イネイブリングチーム
  • コンプリケイティッド・サブシステムチーム

3つのインタラクションモード

  • コラボレーション
  • X-as-a-Service
  • ファシリティテーション

それぞれのチームとモードがどのような役割でどういう場面で使うことで効果的かを詳しく説明しているので、この本を読むことで自分達のチームのあり方を見つめ直すことができる。

この本の中で取りあげられているチーム分割の観点はソフトウェアのアーキテクチャにも通じるところがあり、得体の知れない組織論ではなく、普段のソフトウェア開発の考え方を組織論に適用すれば良いチームに近づくことができる。

例えば、ソフトウェアの設計においては、コンポーネント同士は疎結合で高凝集となるように設計するのが良いとされている。これはチームにおいても同じで、1つのドメインには1つのチームを割り当て、そのチーム同士の依存関係を疎にするように境界を設計することで、1つのチームで仕事を完結させることができ、仕事のスピードも品質も上げることができる。 そういった、どのようなソフトウェアアーキテクチャとするのが良いのかということは、当然開発者が一番よく知っていることである。つまり、良い設計をするには、開発者は組織編成や人事権に口を出さなければならない。 本書にあるように

どのサービスを構築すべきか、どのチームが構築すべきかということをマネジャーに決めてもらっているなら、それはシステムのアーキテクチャーをマネジャーに決めてもらっているのと同じだ

というほどの危機感を開発者は持つべきである。

また、本書ではチームの「認知負荷」をいかに下げるかが鍵であると説明している。認知負荷とは心理学用語で、一つの仕事に対してあれもこれも考慮しながら作業すると頭が疲れてしまう状態のことを指す。PCで言うところのメモリが一度に大量の処理をするせいでパフォーマンスが落ちているような状態とも言える。

ソフトウェアの設計の際に、1つの巨大なクラスを作るのではなく分割して適切なサイズのクラスを作る、1つのクラスには1つの責務を与える、と言うことが良いとされる。サイズが適切で、責務が明確なクラスがコードリーディングしやすいように、チームも適切な作業規模で、知識ドメインを限定してあげる方が認知負荷が低くなり全体像を理解しながらも自分の仕事に集中できるようになる。

他にも、

モノリシックアーキテクチャーかマイクロサービスアーキテクチャーを選ぶのではなく、ソフトウェアをチームの認知負荷の制限に合った形に設計するのだ。

とあるように、マイクロサービスのような流行りに飛びつくのではなく、チームのスキル状態を鑑みて慣れ親しんだアーキテクチャを選択するのも認知負荷の観点からは適切な選択と言える。もし、業務要件でどうしても新たなアーキテクチャを採用せざるを得ない場合は、事前にチーム内で学習するなど認知負荷を下げる努力をするべきだろう。

以上のような、ソフトウェア設計のベストプラクティスをチーム設計に適用することで、良いチームに近づけるということを本書は教えてくれていると思う。

【書評】メタバースの最良の入門書 | メタバース さよならアトムの時代

 

マイクロソフトのちょまどさんが結婚する、ということでお相手のクラスター社の加藤直人さんの本ということで読んでみた。これまでメタバース関係の本を読んだことがなく、軽い気持ちで読んでみたのだが、「最重要キーワードが一番よくわかる教科書」の帯に偽りがない、メターバス関係の最良の入門書であると感じた。

本書では、メタバースの歴史的から、現在の世界の状況、そして将来の展望といった内容が非常に網羅的に書かれている。筆者自身がメタバースのプラットフォームを運営する会社の代表であり、この分野における熱量が感じられ引き込まれる。また、開発者目線での現状の問題点も取り上げられている。メタバースとは何かを学びたい人に最適だと思う。後書きにも書かれているが、2022年あたりに話題になっていることがかなり取り上げられているため、まさに今読むべき本である。

個人的には、旧Facebook、現在のMeta社がなぜメタバースに参入しているのかという筆者の考えも入った話が印象的だった。Facebookの収益は広告であるが、広告を見てもらうには自社のコンテンツを使ってもらう必要がある。ユーザにコンテンツを使ってもらうには、ユーザの可処分時間を奪い合う形で、ゲームやNetflexなどの動画サービスなどとも競合となる。ゲームや動画に比べるとSNSというのはユーザの時間をそこまで得ることはできない。しかし、ユーザの世界自体を作ってしまえば広告はどこでも自在に提示することができる。

従来の、リアルの延長にあるバーチャル空間であればユーザが単に暇つぶしに滞在する空間という程度の意味しかなく、あまり可能性を感じていなかった。しかし、マーケティグ的な必然性がバーチャル空間にあるのであれば、ビジネスとしてバーチャル空間がなくてはならないものになり、それに伴いメタバース周辺の発展も期待できる。今後はもう少しメタバースに注目していきたい。

【書評】ザ・ダークパターン ユーザの心や行動をあざむくデザイン

ユーザに不利益をもたらすWEBサイトの形式をダークパターンと呼ぶ。この本はさまざまなダークパターンを紹介しそれが一時的に組織の指標を改善したとしても将来的にはユーザ離れを引き起こすことを説明している。また、どのようにすればダークパターンを防ぐことができるかも紹介している。

本書はデザイナーやUI担当の開発者が読むことでダークパターンを知り、そこに陥らないようなデザインができるようになると感じる。マネージャーや経営者はダークパターンを生み出さないように、組織としてどのような目標を設定するべきか、また指標の見方を学ぶことができる。また、特に開発に携わらない人であっても、ダメなWEBサイトあるあるなのでただ読むだけで楽しめると思う。

個人的には、今までなんとなくダメだなと思っていたことが、これを読むことで、あぁ、これはダークパターンだな、とカテゴライズすることができ、そのパターンを採用している企業を評価できるようになることがこの本の1番有意義な点だと思う。以下は気になった話。

  • こっそりカゴに入れるダークパターンは、例えば航空券予約の際にデフォルトで有料座席が選択されているケース。デフォルト値は本来はユーザ操作をスムーズに行うためのものでこれを悪用している。デフォルト値を適切に運用するのであれば9割以上のユーザが選ぶ、リスクの少ない選択肢をデフォルトにする。

  • おとり商法のダークパターンはWindows10のアップデート画面のXボタン。Xボタンはアップデートを止めるではなく、アップデートを実行してしまう。マジで悪質。

  • 信頼の貯水地のコンセプト、操作が難しかったりすると水位が下がり、価値を提供できると上がる。ダークパターンを使うと売上は一時的に上がるかもしれないが、信頼の水が枯渇してしまいユーザは去ってしまう。

  • 定量的な指標を追い求めすぎると見かけだけ指標達成するためにダークパターンを使ってしまう。時には定性的に、ユーザーに良い体験を与えられているのか?に立ち返ることも大事。

  • サービスを改善する時には、どうやったらユーザーは登録してくれるか?ではなく、なぜユーザーは登録したくないのかというユーザの不安を出発点にする。

  • 顧客体験向上を目的とした「ノーススターメトリクス」を設定する。

  • ダークパターンを防ぐために、無料会員登録数に対する有料会員登録数のような、「カウンターメトリクス」をみる。

【書評】 Amazon Mechanism

Amazonがなぜこんなにゲームチェンジを起こすような商品、サービスを提供できているかを書いた本。HowToの説明もあるが、企業文化、組織文化をどのように熟成させているかの説明もあり、組織論としても参考になる。

基本的には企業で企画を担当するような人が読むのかと思うが、企業を小さな組織と捉えて自チームの文化を変革したいマネージャ職や、リーダ職の人が読んでも参考になると思う。

以下は参考になった点。

Amazonでは企画書をプレスリリース形式で記載する。こうすることでユーザ目線で最終ゴールから逆算した視点で企画をブラッシュアップできる。顧客目線で考えるためのツールとして取り入れやすいのではと思った。

リーダへの権限委譲を進めるために、ツーウェイドアとワンウェイを判断基準にしている。ツーウェイドアとは後戻り可能な決定、ワンウェイは後戻りが困難な決定。前者であればリーダが独自の判断で決定してもよいとして、意思決定を迅速に行えるようにしている。何でもかんでも上にお伺い立てていると時間がかかるので、判断基準を示してあげることで上司は楽できるし、リーダは自分でプロジェクトを進めているという実感につながると思う。

人の評価に再現性があるかどうかを重視している。プロジェクトの成功/失敗というアウトプットは運によることが大きい。それよりはどれだけプロジェクトに対して準備できたか、インプットできたかどうかを評価する。評価基準として自分の中でも新しい考えと思ったし、自分の行動としても問題が起きる前にいかに準備対策できるかを意識したいと思った。

【書評】 エンジニアを説明上手にする本

普段客先に説明することが多いのだが、苦手意識があるのでどうやったら上手く説明できるかを知りたくで読んだ。

説明を上達するには、プランニング、ライティング、デリバリーをそれぞれ上達すればいい。特にプランニング、ライティングの手法が参考になった。

プランニングでは、ターゲットを事前に見極めるというのが印象的だった。なんとなくプレゼンするのではなく、ターゲットの前提知識やターゲットにどのようになって欲しいのか、要は5W1Hのようなものを事前に考えることが大事。ゴールから逆算してプレゼンを設計する。

ライティングでは、雑多な情報を、ラベル付し、分類、構造化することが大事。ラベル付けは、情報として整理されるし、要約して本質を伝えることができる。箇条書きが複数あったら分類をするということを、日々トレーニングすることが勧められておりやってみようと思った。

この本を読んだことでプレゼンに臨む態度が変わった、非常に参考になった書籍である。

【書評】 失敗の本質

第二次世界大戦前後の日本軍の失敗を分析し、日本軍の組織の特性を示した本。やや古い本だが、現代の日本の会社組織にも当てはまりとても参考になる。

日本軍の強みは環境が連続的に変化するような状況で帰納的に微調整をし続けることで適合することだった。これは大きなブレークスルーを起こすよりも一つのアイディアを洗練することに適している。高度経済成長期の爆発的な経済成長は日本軍時代の特性が企業に引き継がれていることが影響している。しかし断続的な変化が起こった際には適応が難しい。太平洋戦争では、艦隊中心→航空機中心とゲームの前提がかわったにもかかわらず、その前提の変化に適用できなかったことが日本軍の敗戦を招いている。

日本の電気業界が苦しんでいるが、今までの流れにこだわることをやめ、学習棄却をし新しい環境に適用することが大切なのだと思う。

【書評】 ノンデザイナーズ・デザインブック

デザイン本はうんちく詰め合わせで結局は本人のセンスでしかない、と今までは感じていた。しかし、この本では最初に、近接、整列、反復、コントラストというたった4つのデザインの基本原則を示し、それに当てはめるとどのようにデザインが改善するのかが示されていて納得感があった。