H3のこれまでの開発史を俯瞰し、今後どうやって生き残っていくのかを解説した本。H3の機能や開発の特徴や、他国のロケットと比べたときの強みと弱みがよくわかる。
タイトルの2030は、2030年代にはファルコン9ような回収・再利用型のロケットが一般化してくるタイミングであり、究極の使い捨てロケットであるH3はどのように舵を切るのか、という意味が込められていると思われる。
ようやく打ち上がった日本のロケットH3だけど、そもそもどんなロケットなの?他国と比べてどうなの?国際競争力はあるの?というH3、ひいては日本のロケット開発の今後について関心がある人にオススメの一冊。
以下、自分が知りたかった観点で本書の内容をまとめる。
H3の特徴は?
形態
- 使い捨て型
- 従来のHII-Bから打ち上げ準備期間を1年へ半減、機体コストを半減させてコストダウンを図ったのがH3、究極の使い捨てロケット
準備期間半減とコストダウンに向けた特徴
- 新規開発のメインエンジン「LE-9」
- エキスパンダー・ブリード・サイクル
- 副燃焼室が不要でコストダウン可能、一部が破損しても全体に広がることの少ない高い堅牢性
- ただし本来は大型エンジンには不向き
- アビオニクスのネットワーク化
- 配線がシンプルに、検査コスト低減
- 電動バルブ
- 燃焼試験や打ち上げ準備効率化
- 3Dプリンターによる部品の製造
- 固体ロケットブースターSRB-3を使用しない構成が可能
- 大推力のエンジンLE-9を3基装着
- SRB-3なしにすることでコストダウン
輸送能力
- H3-30 太陽同期極軌道に4トン
- H3-24 静止トランスファー軌道に6.5トン以上
主要顧客
- HII-BまではIGSなどの国内の官需
- ユーテルサットと複数の衛星を打ち上げると合意
他のロケットとの比較
SpaceX/ファルコン9
形態
輸送能力
- ファルコン9 地球低軌道に22.8トン
- ファルコンヘビー 地球低軌道に63.8トン
- スターシップ2 地球低軌道に100トン
- スターシップ3 地球低軌道に200トン
主要顧客
- 自社開発のスターリンク
アリアングループ・ESA/アリアン6
形態
- 使い捨て型
- アリアン5からコスト半減
- 再利用可能なエンジン、プロメテウスを開発中、ベンチャー企業マイアのロケットに使用し再利用回収技術を習得していく
輸送能力
- アリアン62 静止トランスファー軌道に4.5トン
- アリアン64 静止トランスファー軌道に11.5トン
主要顧客
ULA/ヴァルカン
形態
- 使い捨て型
- 既存ロケットからコスト半減
- ロシア製エンジン使用からの脱却
- 将来の回収・再利用型ロケットに発展させる構成が検討されている
輸送能力
- VC0(ブースターなし) 地球低軌道に9トン
- VC2(標準構成) 地球低軌道に16.3トン
- VC6(最大構成) 地球低軌道に25.6トン
主要顧客
- スペースX以前はアメリカ政府の安全保障や気象観測、宇宙科学などの官需打ち上げのほぼ全てを担っていた
ブルーオリジン/ニューグレン
形態
- 回収・再利用型
輸送能力
- 地球低軌道に45トン、静止トランスファー軌道に13.6トン
主要顧客
- Amazon「プロジェクトカイパー」
中国/長征
形態
- 使い捨て型/回収・再利用型
- 長征8および将来ロケットの長征9は回収・再利用型の計画
輸送能力
- 長征5(打ち上げ能力最大) 地球低軌道25トン
- 長征6 太陽同期極軌道に約1トン
- 長征7 地球低軌道に13.6トン
- 長征8 地球低軌道に8.1トン
- 長征11(運用性が高い) 地球低軌道に0.7トン
- 長征9 地球低軌道に150トン(予定)
主要顧客
- 国内需要(1万基以上のコンステ計画が3つ)
H3には国際競争力はあるのか?
- H3は究極の使い捨てロケットというのが特徴
- 固体ロケットブースターSRB-3なしの構成H3-30では機体単価50億円以下という目標
- 機体調達から打ち上げのコストの概算(括弧内は1ドル150円とした場合の換算)は
- H3-30:60億円(4000万ドル)
- H3-22:70億円(4700万ドル)
- H3-24:90億円(6000万ドル)
- 能力的にはH2-24と同等のfalcon9では打ち上げ価格6700万ドル(+オプションが上乗せ)
- コスト的には国際競争力はある
- 使い捨て型と比べて回収・再利用型がコスト的に有利かはまだ明らかではない
- 打ち上げ頻度は回収・再利用ロケットの方が高い、衛星コンステ構築で有利
- 現在のH3をブラッシュアップしつつ、回収・再利用の技術を獲得を狙うべき